2009年12月20日

第8回教養講座:非行とは何か(要旨)

第8回教養講座 2009年11月 28日 
非行とは何か(要旨)
 藤野京子(早稲田大学文学学術院)

1)わが国の戦後の非行動向

 
第二次世界大戦以降のわが国の非行を振り返ってみると、時代によって、随分と質の違った非行現象がうかがえる。@昭和26年にピーク(第一のピーク)となった敗戦後の物質的困窮と社会的混乱を背景とした生き延びるための非行、A昭和39年にピーク(第二のピーク)となった敗戦からの急速な経済的復興の中、物質的には豊かになったものの社会の歪みも露呈したことを背景に、その歪みに対する怒りからの非行、B昭和58年にピーク(第三のピーク)となった一億総中流化して誰もが躍起にならなくても生きていける時代を背景に、マンネリ化しがちな生活の中で刺激を求めて、つまり自分達なりに面白い生活にしようとしての非行、などである。学際的な研究が活発化してきた昨今、非行・犯罪の研究分野でも、各分野の既存の諸説を網羅的にとらえようとの動向がうかがえるが、たとえばAndrews & Bontaは、@非行・犯罪に対する促進要因や抑止要因等のその個人が置かれた非行・犯罪に至る直前の状況、A資質、物事に対する捉え方や信念、日ごろの行動といった個人レベルのもの、B親子関係、遵法的な他者との結びつき、反社会的な他者との結びつきを含めた対人関係レベルのもの、に加えて、Cその個人が属している地域社会のみならず社会構造や文化的要因を含めたより広い文脈、をも総合的に勘案すべきであると主張する「個人的、対人関係的、コミュニティ強化理論(A Personal, Interpersonal and Community-Reinforcement Perspective (PCI-R)
)」を提示している。心理学では、時空を超えた普遍的な人間の特質を解明しようとする傾向があるが、犯罪・非行に走る人の心理の理解に当たっては、上述のように、そして「非行は世の鏡」とも言われるように、その個人を取り巻く文脈を理解することが肝要である。

2)非行に走る昨今の子どもたち

  第三のピークのころには、「暴走族」や「つっぱり」に象徴されるように、自らを「非行少年」とみなし、それらしい外見を装いながら非行に走っていた者が多かったが、こうした様相は昨今すっかり姿を潜めている。外見から非行少年かどうかを見分けるのが難しくなってきていることに加えて、非行に走っている当事者自身も自らを非行少年とみなしておらず、非行少年と一般少年との境がボーダレス化するに至っている。昨今の非行の特徴をよく表している事例としては、@学習障害を有しており協調的に振舞うことが苦手なため周りから疎んじられるばかりであった少年が、人と一緒に行動できる場を作ろうとして放火に至ったもの、A長年いじめられたり孤立させられてきたりした少年がやっと仲間に入れてもらえるようになった状況下、その仲間の一人が金銭面での問題を抱えたことから、それを助けようとして強盗に至ったもの、B些細な逸脱が警察に発覚され、そのことでの親の叱責を恐れて家出が始まり、状況が悪化の途をたどるにもかかわらずそれに歯止めをかけられず、捨て鉢な気持ちになっては強姦までをも行ったもの、C学業面での伸び悩みを感じた少年が車の運転の面白さに取り付かれたとして、車を窃盗しては無免許運転して何台も廃車にさせ同乗者にも怪我を負わせたもの、などが挙げられる。自らの非行について「社会が悪い」などと、社会に反発すべく非行をしているとの意識はあまり見出せない。「なぜか自分は社会から落ちこぼれてしまった」との生活感情を抱くにとどまっている。成熟化社会となり、問題視されている現象に対しては、根治されてはいないものの表面的な対策は講じられている社会であるがゆえに、社会適応できないことの責任を個人に帰属せざるをえなくなっているのかもしれない。さらに、彼らに共通するのは、是が非でも、生き抜こうとの強さを供えていないことである。うまくいかなくなれば、捨て鉢になるだけである。中には、生きづらさをしっかりと自覚する以前に、お手上げといった感じで行動化してしまっている場合も少なくない。無気力で稚拙な、さらに反社会的というよりは非社会的な少年が非行に走るようになっている。自らの人生に自分で責任を持って生きていこうとの気概はうかがえない。バブルの崩壊以降、閉塞感・不透明感が漂い、明るい展望が抱けない社会風潮が遠因しているのであろうか。また、社会に十分に適応できていないと感じる者同士が徒党を組むことも少なくなってきている。コンピュータや携帯電話が一般人の生活に組み込まれ、人間疎外が進んでいるが、非行に走る者の間にも、そうした影響があるのかもしれない。
タグ:講座
posted by wpa2 at 22:17| 東京 ☀| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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