2011年05月06日

伝言ボード(2008年10月11日以降)

「脳の科学史 フロイトから脳地図、MRIへ」 小泉英明著

(角川SSC新書 No.122)  2011年3月25日 第一刷発行。

小泉は子供のころから「測る」ことが好きだった。高校生のころには
ガイガー・ミュラー計数管(最も古典的な放射線測定器)を手作りで
組み立て、空から降り注ぐ宇宙線や中国の核実験の影響と思われ
る放射線を観測していた。

大学で原子分光学を学び、日立製作所に入社して最初に取り組ん
だのは生体や環境に含まれる微量の水銀を検出する方法だった。

そのころ水俣病が問題になっていて、原因は水銀らしいというこ
とまでは突き止められていたが、まだ詳しいメカニズムは解明され
ていなかった。水銀を検出するのは難しい。水銀は融点が低く、蒸
発しやすい。アイソトープ(同位体)を使う方法に取り組んだが、コスト
が掛かり過ぎて行き詰まった。

小泉たちは、アイソトープを使わず、ゼーマン効果だけを使うことに
した。ゼーマン効果というのは1896年にオランダのゼーマンによっ
て発見された。原子から放出される電磁波のスペクトルは磁場が
無いと単一波長だが、磁場があると複数に分かれる現象を指す。
それを応用し、ゼーマン原子吸光法を開発した。さらに偏光ゼーマ
ン原子吸光法に拡張し、水銀だけではなく、どんな元素にも使える
ものにした。その後、各地で頻発した様々な公害の原因物質の特
定に活躍した。

MRI(磁気共鳴画像法)もゼーマン効果を利用している。ゼーマン効
果を使って水銀の量を測れたように、いろいろな原子核もゼーマン
効果を起こす。こちらを原子核のゼーマン効果と呼び、元の方を電子
のゼーマン効果と呼ぶ。MRIでは体内の水素の原子核(陽子)のゼ
ーマン効果を利用し、それを画像化している。軟部組織という水を含
んでいる組織なら何でも見えるし、X線の被曝もないので安全である。
測定時に音が大きい欠点を除けば、身体への害も少ない。

1984年、東京女子医大に納めたMRIが故障し、その修理に当たった
小泉たちは偶然、動いている水と止まっている水では違う信号が出
ていることを発見し、それに基づき血液の流れを見ることの出来る
MRA(磁気共鳴血管描画)を開発し、日立は特許を取得した。

fMRI(機能的磁気共鳴描画)もまた同様の原理を応用し、タスクを行
なっているときと行なっていないときの血流の変化を計測して画像化
する。血液の磁性の変化も利用し、1992年にfMRI装置を開発した。

小泉らはMRIを使い、世界最初の論文を幾つか提出したが、MRIの
計測は長い時間が掛かり、被験者はその間じっとしていなくてはなら
ないし、ガンガンと音もうるさい。もっと自然な環境で感情や脳の働き
を観察できないかと悩み、近赤外光トポグラフィを開発した。

人間の脳の大事な機能は脳の外側にある。光を脳の反対側まで通
さず、外から入った光が充分に戻って来ることを利用すれば、脳の統
合的な働きを見たり、赤ちゃんの脳の機能の発達を観察したり出来る。
頭に帽子のような測定器を被れば、自由に動き回れるし、被験者の自
然な状態を観察することが出来る。

「測ること」、「見ること」は非常に大切である。何らかの「実在」を見る
ことによって、はじめて考えることも出来るし、分かることも出来る。
ガリレオ・ガリレイの使用した望遠鏡は、今から見れば子供でも作
れそうな素朴なものだが、天文学も物理学もそこから発達した。

2011. 5. 4.(水)
中村誠。

タグ:伝言ボード
posted by wpa2 at 22:57| 東京 ☁| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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