2011年06月27日

第11回教養講座:睡眠の正常と異常―臨床心理学からの理解と支援(要旨)

第11回教養講座:2011年5月21日
『睡眠の正常と異常 −臨床心理学からの理解と支援−』
松田 英子 (江戸川大学社会学部人間心理学科)

1.睡眠障害とメンタルヘルス問題
日本人成人における睡眠の不調が深刻な状況にあるため、「不眠症」,「睡眠時無呼吸症候群」「(短時間睡眠による)睡眠負債」など、睡眠の不調に関わるキーワードがよく取り上げられている。つまり、満足な眠りを得られない人が増加している。これら睡眠の不調は単純に生産性の低下や事故などの社会的損失と関わるだけではなく,成人の精神的健康と密接に関連している。産業臨床の現場でも、睡眠障害とその他の精神症状を併発しているケースが多くみられ、特に精神障害による休職者が、復職する上でも睡眠の改善は大きな影響力を持つ重要な課題である。

2.睡眠障害の種類と治療・支援法
アメリカ精神医学会のDSM-W-TRによれば、睡眠障害は、睡眠時間や睡眠のリズムそのものに問題がある睡眠異常と、睡眠中の行動や体の状態が異常になる睡眠時随伴症のカテゴリーに大別される。発達との関連性でそれぞれの具体的不調と好発時期を挙げると、睡眠異常には、不眠症(児童〜高齢者)、過眠症(思春期〜中高年)、ナルコレプシー(思春期〜中高年)、呼吸関連睡眠障害(中高年)、概日リズム障害(児童〜中高年)がある。一方、睡眠時随伴症には、悪夢障害(児童〜中高年)、 睡眠時驚愕症(児童〜思春期)、睡眠時遊行症(児童)、レム睡眠行動障害(中高年〜高齢者)がある。これらの中でも発達とともに自然に問題が消失する、予後の良いもの以外は、薬物療法が主体となる。その中でも不眠症と悪夢に関しては、心理療法のうち、認知行動療法が有効であるというエビデンスが積み重ねられている。睡眠そのものの異常について、判断するポイントは(1)量の問題(短時間すぎる、長時間すぎる)、(2)質の問題(不眠、安眠感が得られない)、(3)位相の問題(朝型か夜型か)、夢の場合には、(1)量の問題(頻繁に想い出しすぎる)、(2)質の問題
(内容が恐怖を喚起すぎる)である。夢想起がない状態、健常夢 、不安夢、悪夢と分類可能である。睡眠と夢のいずれも日中に影響が残らないこと、社会的機能の損傷がなければOKである。

3.睡眠に関する臨床心理学研究
(1)不眠についての調査研究
職業人の職務ストレスと不眠、悪夢、抑うつとの関連について検討した結果、職務ストレスから抑うつへの直接的効果は、有意であるものの弱く、不眠、過眠、悪夢症状から成る睡眠の不調が、抑うつをよく予測するモデルが見出された。抑うつの予防には、ストレスそのものへの対処より、睡眠の改善が効果的な可能性がある。一方、不眠と抑うつは同時的に生じている可能性が考えられ、因果関係の分析にあたり、2波のパネル調査を行った。同時効果モデルで検証した結果、その結果不眠から抑うつの影響が見出された。成人においては、抑うつの予防のためにも不眠の改善が重要であることが示唆された。不眠症は将来のうつ病発症のリスクを高めることや、不眠症のみならず過眠や睡眠障害全般(過眠,悪夢)が自殺企図と関連しているという報告を支持している。
(2)不眠改善のための効果研究
日本人の4割〜5割に不眠の傾向あるが、日本人は服薬への抵抗感強く、極端に医療機関受診率が低いため、非薬物療法(認知行動療法CBT)への期待が高まっている。不眠症の認知行動療法(CBT-I;i.e. Morin, 1993)はいくつかの非薬理学的介入の組み合わせ(@リラクセーション、A認知的再構成(特に入眠前の思考活動に着目)、B刺激統制(環境調整)、C睡眠制限、D睡眠に関する心理教育)から構成されている。 CBT-Iによる心理教育を用いた介入実験において、不眠得点の軽減に寄与することを確認した。

4.悪夢に関する臨床心理学研究
(1)悪夢、不眠を伴う社会不安障害支援の事例研究
社会不安障害患者の不眠と悪夢症状に対し、リラクセーション、エクスポージャー、認知療法による認知行動遼による介入によって、主訴が解決された経過の報告を行った。
(2)悪夢障害支援の事例研究
悪夢障害患者の悪夢症状に対し、認知療法による介入によって、主訴が解決された経過の報告を行った。事例研究からも、不眠や悪夢は心理社会的ストレス,また抑うつや不安などの精神症状との関連性があり,不眠や悪夢の改善が日中の精神的健康を高める可能性がある。非薬物治療である認知行動療法の適用により不眠や悪夢の改善効果が見込める。

タグ:講座
posted by wpa2 at 17:11| 東京 ☁| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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