2013年02月20日

第14回教養講座:笑いと健康 − 笑いの社会健康的意義と日常的実践 −(要旨)

笑いと健康 − 笑いの社会健康的意義と日常的実践 −
目白大学講師 野澤孝司
笑いヨガティーチャー 高橋カレン
2012年10月27日(土)

笑いと身体的健康
 笑いは古くから「笑いは百薬の長」、「笑いに勝る良薬なし」などとも言われ、日常的な健康と何らかの関係があることが示唆されてきた。実際の笑いと体の健康との関わりについての報告の始まりは、1970年代の米国のジャーナリスト、ノーマン・カズンズの体験的報告が最初である。カズンズは、自らの疾患(硬直性脊髄炎)を、毎日のコメディー鑑賞による笑いとビタミンCの摂取によって完治させ、医学誌に載せた体験報告が当時の社会的注目を浴びた。その後、1990年代に精神神経免疫学(PNI:Psycho- Neuro- Immunology)が誕生すると、笑いをはじめ、音楽鑑賞やアロマセラピーといった精神的な活動によって、身体的な防御機構である免疫系が活性化することが報告され始めた。笑い行動に関しては、落語やコメディー鑑賞の前後で、体内の癌細胞を攻撃するNK細胞(ナチュラルキラー細胞)や抗体反応(免疫グロブリン)などの活性が確認されている。
 笑いによるストレスホルモンの減少や血糖値上昇の低減効果、血圧値の低下などといった他の身体生理的指標を用いた生理的・身体的効果の報告がいくつかあるにも関わらず、そういった笑いとの関連研究はいまだ非常に数が少なく、一貫性がないことも報告されているという点で、いまだ科学的・学術的な俎上に上がっているとは言い難い。

笑いと精神的健康
 笑いやユーモアといった快活なプラス感情や行動は一般に、精神的ストレスやネガティブな感情状態が少なく健康で長生きをするというように思われてきた。しかし、1920年代にアメリカで行われた1000人規模の縦断研究では、幼少時に快活であると評価された人ほど早死にであることが示されている。これは快活で楽天的な人ほど健康上のリスクに無頓着で、かえって不健康になりやすく死亡率も高くなると解釈されている。笑いやユーモアのセンスに優れた外向的な人も同様に、内向的な人に比べて肥満や喫煙などに関しては不摂生で、死亡リスクの高い疾患に罹りやすいという報告もある。
 こうした逆説的な研究報告がある一方で、ドイツ語の諺「ユーモアとは「にもかかわらず」笑うこと」に表現されているように、笑いの心理的効用は、人にポジィティブで積極的な態度をもたらし、精神的な回復力を強め、リラックスして不安を取り除くことにより肉体的な苦痛をも和らげるなどといった多くの有用な側面を持っている。これは予防医学やホリスティック医学、そして最近のポジィティブ心理学的な視点にも通じる重要な心理的効果ともいえる。

笑いと社会的健康
 笑いはもともと個体間での社会的、感情的コミュニケーションの手段として進化したと言われている。笑いの社会実践的な活動として、クリニクラウン(病院等で患者の心の状態をサポートするための専門職)、笑いヨガ(後述)、笑い療法士(癒しの環境研究会が認定している医療・福祉現場での心理職)などといったものが日本では普及している。
 我々の研究プロジェクト(プロジェクトaH及びユーモアサイエンス学会)では、数年前から、笑いの呼吸反応を胸部の呼吸筋の筋電反応として測定する装置(笑い測定器)を開発し、笑いという感情反応を定量的・客観的に厳密に測定する研究を継続している。
 笑いの社会的特徴の1つに「情動伝染(感染)」という現象があり、おもちゃの「笑い袋」やテレビ番組の「ラフトラック(効果音)」に代表されるように、古くから笑いの感染効果は一般的にも利用されてきた。我々も、笑いの筋電測定とラフトラックを組み合わせた「笑い増幅器」という装置も開発し、笑いの社会的効果の応用研究も行っている。
 こうしたヒトの「笑い」行動の客観的で厳密な科学的研究が行われない限り、「笑い」という心理・生理的反応が本来どのような効能を持っているのか、現実の健康状態にどのような影響を与えるのかといったことについての真意は解明されず、メディアや一般の通説などが罷り通ることにつながる。これでは、せっかくの健康的な態度や行動も、単なる「健康ブーム」や「笑いと健康ブーム」などという一時的な流行として終わってしまう事になる。

笑いヨガ
 最後に、社会的笑いの実践活動の具体例として、日本で最近活動が盛んに行われている「笑いヨガ」を挙げたい。笑いヨガとは、1995年にインドのカタリア医師などが始めた笑いの体操とヨガの呼吸法を合体させて、多くの人が集まって行う一種の笑いを用いたエクササイズのことである。笑いヨガの特徴としては、笑いを誘発するジョークやユーモアなどの刺激は一切不要で、何も面白くなくても手軽に笑えるとてもユニークな健康法の1つである。また、皆が一緒になって笑いあうということで、笑いの感染機能を効果的に利用し、可笑しさの感情も自然と湧いてきて一層無理なく笑える状況を作りだせるようになっている。具体的な笑いヨガのやり方は、「手拍子」「深呼吸」「笑いの体操」「リラクセーション」等のシンプルな行動手続きの組み合わせから構成され、笑いヨガリーダーと呼ばれる体操の指示や音頭をとったりする指導者の下に行われる。
 現在では笑いヨガの活動は、全世界70か国以上の国々に普及し、日本でも各地で笑いヨガクラブとしての活動が盛んに行われている。日本には古くからラジオ体操という実践的な体操習慣の歴史もあるせいか、早朝に地域の住民が集いあって笑いのエクササイズを行うという一種の社会実践的な笑いの活動は、最近では多くの地域に浸透してきている。
 講演最後には、笑いヨガのインストラクターの高橋カレンさんに説明を交えながら笑いヨガを実演してもらい、会場の参加者の方にも笑いヨガの体験をしていただいた。

 
ラベル:講座要旨 講座
posted by wpa2 at 00:22| 東京 ☁| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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